酒匂川の河川災害についてもうちょっと状況を整理してみる。

昨日のエントリーでid:zenryo_itauさんにトラックバックもらったりして、こりゃもうちょっと朝日新聞の記事だけじゃなくて災害自体に突っ込んで調べてみたほうが良いかなという事で当時の状況をちょっと調べてみました。
まず、災害の発生した酒匂川の概略から。酒匂川は静岡県と神奈川県を流れる二級河川(国ではなく県の管理する川)で、静岡県内では鮎沢川と呼ばれているそうです。また、三保ダムのある河内川は災害の発生した神奈川県山北町で酒匂川と合流しています。
まず、当時どんな風に降雨があったのかという事で、「国土交通省【川の防災情報】」のレーダー雨量画像を引用します。(画像中の小山町山北町・三保ダムの位置については私が大体の位置をフリーハンドで記入したものです。正確な位置では有りませんのでご注意を。また川の防災情報のデータは一定期間立つと削除されてしまうため、画像を複製し引用いたしました。)
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この雨量の推移を見ると、県境付近で時間雨量100mm超に達する猛烈な降雨が発生している一方、神奈川県側では9時過ぎに一時的に雨脚が強くなったほかは、10mm/h〜20mm/h程度の傘を差さなきゃやってられないなー程度の降雨で推移しています。また、災害の発生した11時には雨が上がっていることも見ることが出来ます。
また、三保ダムから災害の発生した山北町付近ではせいぜい20mm/h程度の降雨しかなかったことも読み取れます。三保ダムのダム湖である丹沢湖の雨量が川の防災情報で照会することが出来ますのでそのグラフを引用してみます。

この図からも9時に雨脚が一時期強くなったとはいえ、せいぜい15mm/h程度ということが読み取れます。

というわけで、まとめてみると

  1. 静岡県・神奈川県境で17日8時から10時の間に、一時的には時間雨量100mm超にも達するような猛烈な降雨があった。
  2. 神奈川県側では降雨があったものの災害現場付近ではそんなに強い雨が降っていなかった。
  3. 三保ダムの集水域では100mm超の降雨があったものの放流量は11時45分に23.5t/s程度だった。
  4. 11時には雨が上がっていた。

となります。このことから11時くらいに雨が上がったので(あるいはそれほど強い雨が降っていなかったから朝からいたのかも知れませんが)川の中に入り釣り等をしていたところ、静岡県側で降った猛烈な雨水が災害現場付近まで到達し、災害が発生したというシナリオが推測できます。ちなみに静岡県の小山町から神奈川県山北町までは十数キロ、群馬県の藤原ダムでもらった資料では利根川上流部の場合大体10kmを1.5時間かけて流下するそうなので、それをそのまま(って、ちょっと乱暴ですが)適用すると降雨の時間と災害の発生した時間の整合性が取れてるのが確認できるのではないでしょうか。
あと、サイレンの鳴動についてですが、大体どのダムでもサイレンを鳴動させ警報を伝達する場合として次の3つの場合が決められているようです。

  1. 放流を開始するとき
  2. 放流の流量が増加し、水位の急な上昇が見込まれるとき
  3. 但し書き操作の開始時

三保ダムの場合7時から放流を開始していたとのことですから、1つ目には当たらないでしょう。また3つ目の「但し書き操作」というのは流入量が増えてダムが満水になることが予想されるときに、流出量を徐々に流入量に近づけていく操作を差しますのでこの場合も当たらないでしょう。というわけで、この25t/hで鳴らすという決まりは2つ目の条件に関係する操作ではないかと思います(一般的な話として取り扱っていますので実際とは異なる可能性も十分ありえます。一応念のため)。だから、25t/hという基準は河川に影響を与え始める流量として設定されたとすれば、それ以下で放流していた今回の場合、下流ににおおきな影響を与えない範囲で放流を行っていたという風にも見ることが出来ます。また、記事では23.5t/sに達していたのは11時45分と書かれています。地図で確認してみると三保ダムから河内川との合流地点までは5kmほどです。災害発生当時の放流量はもっと少なかったのではないかという事も推測できます。

じゃあ、どうすればいいのかな

今回の災害は川の中で起きた災害で、堤防やダムを作ることによって対策する川の外の災害とは分けて考える必要があります(この辺勘違いすると、逆にダムの効果なんてたいしたこと無いじゃんと誤解してしまうかもしれません)。また、ダムの警報設備は基本的にダムに関しての情報しか流さないということも踏まえておく必要があります。
警報設備をダムだけではなく、河川に関する総合的な警報を流すために活用するという試みは最近各所で行われています。しかし、酒匂川の場合都道府県の管理する二級河川であり、また静岡県と神奈川県をまたがって流れている川ということも有って、何か対策を立てるにはいろいろ調整をする必要があるかもしれません。また、対策を立てようにもその対策の元となる情報を収拾する水位観測の設備などの整備が不十分という事も有るかもしれません(今回新聞記事などでも三保ダムの水位観測所の情報は掲載されていますが、それ以外の情報がほとんどありません)。そうなると、すぐに実効性のある大掛かりな対策を講ずるというのは結構大変なことかもしれません。
一方で、山北町のサイトを見ると釣りやカヌーと言った川を観光資源として積極的に活用しようという地元の意思もあることが確認できます。
と、なるといま手元にある駒を有効に活用して、少ないコストで確実にできることというのを模索していかなければならないということになると思います。とりあえず、すぐに思いつく事として、降雨情報の把握でしょうね。これに関しては気象庁AMeDASなどの情報が今はすぐに入手できるわけですから上流域をチェックしてそれを警報にまわせるような仕掛けを構築できないでしょうか。
また、自治体がやるような大掛かりなシステムじゃなくても、例えばケータイの位置情報サービス利用して、利用者のいる場所の最寄の河川から水位やら降雨情報やら取り出せるような仕掛けができれば個々人で判断して避難することができるかもしれません(携帯がつながる場所ということが前提ですけど)。そう考えると今の「川の防災情報」のシステムってもっと活用できないかなぁ、なんて思うのです。利用すべき人がもっと利用すべきだし、システムとしてもまだまだ改良すべき点があるでしょう(それこそ、RSSやWebAPIの公開とか)。サイレンの鳴った・鳴らないだけが問題じゃなくて、いまの世の中、サイレンだけでどうする、という気がします。