バーチャルキャストは顔出し動画を民主化する

 バーチャルキャストはVR機器とPCを使用してVR空間上でバーチャルキャラクターになって生配信や動画を作ることができるサービスです。機材さえあればVTuberに誰でもなれるサービスといったところでしょうか。
virtualcast.jp

 僕は以前からニコニコ生放送で砂防やダムなどについてあらかじめテーマを決めて話す講座形式の放送を定期的に行っていました。
com.nicovideo.jp

 放送前にプレゼンテーションソフトで作ったスライドを映像に流してそれに沿ってひたすら喋り倒すというスタイルの放送なのですが、どうしても画面が単調になりがちでした。またコメントに反応してなにかリアクションしようとしても声とマウスカーソルで反応する程度のことしか出来ず、どうにかならないかとずっと思っていました。

f:id:dambiyori:20181021210722j:plain

 そこに現れたのがバーチャルキャストだったのです。今年の6月くらいにホワイトボードというアイテムに画像をあらかじめ設定した順番に表示する機能が実装されて、これを使うと番組内でスライド画像を使用したプレゼンテーションができるようになりました。
 「これ、ひょっとしたら僕の放送で使えるのでは…」と思って実際にやってみたら想像以上に良かったわけです。スライドだけの配信と見比べて全然見栄えがするし、なによりやっていて楽しいんですね。話者の身振り手振りといった言葉以外での表現というのはやる方も楽だしスライド映像だけの時と比較してその力も圧倒的に大きいとしか言いようがないわけです。

f:id:dambiyori:20181021211404j:plain

 実は以前からスライドをどこかに投影してそれを説明している様子をカメラで収録するような形の配信はできないだろうかと考えてはいました。ところが「それなりの大きさのスクリーンにプロジェクタでスライドを投影してその前に立って話をする様子をカメラで収録」みたいな事、実際にやろうとするとかなりの大ごとになってしまいます。
 まず、ちょっとした会議室程度のスペースを撮影スタジオとして整えることが必要になるでしょう。話者とスライド画像を綺麗に映像にするには照明やカメラの調整も大変そうです。しかもこれらを一人で配信中に操作しないといけないし、そもそも顔出しの配信を行うこと自体の敷居の高さはなかなかの物です。
 以前から「with Dam☆Night」というダムについてのトークイベントのネット生中継をやっていたので、だいたいどれくらいの手間が必要なのかはおぼろげながら見当がついて、あれをやってさらに話をするという一連のことを一人で行うのは相当厳しいなという実感がありました。

f:id:dambiyori:20181021210737j:plain

 そういった困難をバーチャルキャストは見事に解決してくれます。バーチャルスタジオ内の移動はコントローラーの操作で行えるため、リアル空間上のプレイエリアがそれほど広くなくてもどうにかなってしまいます(とはいえ、広いのに越したことはないですが)。僕はOculus Riftを使用しているのですが、自室のPC前にある大体1.5m四方くらいの空間でVR空間に作られたスタジオの広い空間を行ったり来たりすることが無理なくできるんですね。しかもソフトをセットアップするだけでカメラやライトの設置や調整みたいなややこしいことが一切いらず十分に見やすい配信画像を得ることができるわけです。
 バーチャルキャストというサービス、このバーチャルスタジオとしての作り込みが現時点でも非常に良く出来ていてVRに関する知識や技術を必要とせず、しかも一人で全ての操作を行うことを前提に作られているので、かなりのことが無理なく手軽に出来てしまって本当にびっくりします。
 さらに、アバターによる動画出演なので自分自身のリアルな姿を出さずに自分自身を動画に落とし込むということができるわけです。「VRによる撮影に使える広いスタジオと自由に選べる自分の姿による放送の実現」というのはいろんな手間や覚悟を決めなくても実質顔出し動画のメリットを享受できるという、ある意味「顔出し動画の民主化」とでも言えるような状況が実現されているのではないでしょうか。


 いろんなものが電子化されることにより得られるメリットっていうのは二つの方向性を持っているように思うのです。例えば、電子楽器が作られたことによって、テクノミュージックのような今までなかった新しい音色による新しい音楽が生まれる一方、カラオケの伴奏を音源装置一つで肩代わりできるようになるようなオーケストラの代替の存在になり得るという価値を生み出しました。
 VTuberの場合も同様に、まずは全く新しいバーチャルタレントとでもいうべき存在を生み出されたという部分が現時点でクローズアップされていると思います。しかし、特段新しい人格を創造したキャラクターを作ったりしなくてもアバターを使ってVR空間にスタジオを作って動画や生配信を行うというのは従来個人では難しかったことを実現させる手段として大きな可能性があるように思えるのです。


バーチャルキャストを使用するにはハイエンドPCとVR機器が必要ということで、まだまだ導入するのは手軽とは言い難い感じではあります。しかし、この一連の技術というのは、今時点でVTuberという言葉で括られる印象以上に、もっと広い領域で使われる可能性を秘めているように思えるのです。少なくとも、今まで講座動画や生放送みたいなものを作ってた人、これ使えるよ!って声を大にして言いたいのです。


※.ちなみに、バーチャルキャスト登場以前からある特定のテーマや学術領域に関してのVTuberなどの活動をされている方が「VRアカデミア」という概念を提唱されています。

VRアカデミア