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「砂防特論」読んだ

昭和30年発行の絶版本ですが。

砂防特論 (1955年)

砂防特論 (1955年)

ぼちぼちと2 : 山をしっかりと手入れしていくのエントリを目にして、検索したらAmazonで古書として売られていたのでポチッと購入。いや、凄い本です。
この著者の伊吹正紀氏という方ですが、昭和初期に内務省に入省し立山・白山等の砂防にあたられ(上司として赤木正雄氏の名前は出てくるわ、白山砂防を担当されたのが別当谷の大崩壊があった昭和9年だわ)、後に各地の砂防工事事務所長を歴任されたというまさに日本の砂防の黎明期に第一線の現場におられた方。「特論」なんて銘打たれてるのでものすごく難しい専門的な事が書かれているんじゃないかと不安だったのですが、ひも解いてみれば良い意味で裏切られました。砂防についての広くて深い考え方や思想・ノウハウが非常に平易な言葉で語られていて(数式とかもほとんど出てきません)、読んでいてホクホクしましたよ。こういう本が読みたかったんだ、みたいな。
たとえば、僕がいまいち理解出来なくて調べても答えがきちんと出てこなかった、「砂防ダム」と「床固工」の違いについて触れられている部分があるのですが、砂防ダムっていうのは川床を上げる事を目的とした構造物であり、床固工っていうのは、川床を下げて安定させるための構造物といった感じで非常に明確に説明がなされていて、なるほどなぁ、と。
あと、本筋とは関係無いですが、目を引いたのがこの一節。

このようにして森林の都合の悪い点ばかり数えあげて行けば理論的にも悪いということになるかも知れないが,大局から見れば当然誤った議論である.また同じようにして森林の都合のよい点ばかりを数えあげてこれを集め,殆んど狂信的に森林の効果を賛美し,森林さえあれば山崩れも起こらなければ洪水の心配もなくなる,山腹工事さえやれば堰堤工事などいらないというような話もやめた方がよい.

いったい、どこの「緑のダム」批判かっていう感じの文章ですが、実際は昭和30年に書かれた文章でありまして、こういう議論って最近生まれたわけじゃなくてずっと昔からあったんだなぁと妙なところで感心しました。
「緑」といえば、この本の中で触れられていることに「堤防植林」という物があって、河川堤防にマツやサクラなどを植林する事は古くは奨励されていたのになぜか今は逆に禁止されてしまっている、堤防に害を与える恐れのない範囲で植栽して、河川をレクリエーションの場とし、併せて護岸水制の効果も持たせられないかといった事が記されていて(コンクリートや石積みにより整備された「白い川」に対して「緑の川」と表現されています)、これなんか凄いというか、いま民主党が政策として表明したら世に拍手喝采で迎えられそうな工法だなーとか思ったり。
今から50年以上前の本なので、今の技術や知見から見ると間違った部分なんかも多分あるのでしょうが、全篇に渡って伝わってくる筆者の経験に裏付けされた説得力に圧倒されたというか、出会えてよかったなぁと思えた1冊です。

ちょっと追記しました。
「堤防植林」と「緑の川」 - 「まずまずのダム日和」