破砕帯に託されるもの

以前、長野で映画版の「黒部の太陽」を見たおぼろげな記憶から書いてみる。ものすごくネタバレな話します。
映画版の「黒部の太陽」では原作の小説には無かった「岩岡親子の確執」という物語が導入されるんだけど、これは単に親子ドラマを描きたかったわけじゃなくて、「高熱隧道」の黒部川第三発電所の工事と今回の「くろよん」の工事、突き詰めれば戦中と戦後の日本をモチーフにした物として描かれているんじゃないかと理解してる。作中、石原裕次郎演じるところの岩岡は、あくまで父のやり方に異を唱え、安全第一・科学的な手法で破砕帯に立ち向い、そして最後には見事に突破することとなる。このとき、父がトンネルから逃げ去るシーンが描かれていて非常に象徴的なのだが、これはまさに戦後の日本の勝利を表現していると言えるだろう。
このあと、ラスト近くで父との和解を遂げる事にはなるんだけど、ともかく親子の話であってそれに留まらないのが岩岡親子のエピソードなんじゃないかと思うのだ。
ところが、今回の舞台版の場合、単純な親子の確執の話になってしまっていて、原作や映画に有った作品のスケール感が失われたような感じを受けた。ほかにも工事の犠牲者を絡めた部分で「敵を討って」的な話の展開が何回か有るんだけど、それってのべ1千万人規模の巨大プロジェクトを動かすのには無理がないか、みたいなこととか、べつに「黒部の太陽」という作品を使って語る必要が有るのかなという事柄があれこれ有って、なんかいまいちな印象を受けたのだ。
その他に、今回は映画版制作の舞台裏を作品に絡めるという新しい試みに挑戦していたのだが、(僕が見落としてなければ)配給先が決まらないというところでそっちのシーンはパッタリ途絶えてしまうという所も残念。おそらく今回の作品で一番要になる部分だったんじゃないかと思うのだが、何か制約があっての事(時間の関係とか)なのだろうか。
そういえば、映画版はDVD等にパッケージ化されてないけど、どうやらこの本にシナリオが収録されてるらしい。

黒部の太陽

黒部の太陽

梅田芸術劇場のロビーで売ってたけど知らないのでスルーしちゃったよ。じっくり読みたい。